試験統計家とは:方法論と技術的スキルを超えて求められる能力

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ICH E9では、試験統計家の役割と責任は、他のチームメンバーと協力して、統計的原則が臨床試験に適切に適用されていることを保証することであるとされています。したがって、試験統計家は、これらの原則を適切に実行するために、必要なトレーニングを受けると同時に実務経験も兼ね備えていなければなりません。

優れた統計家とは、統計の手法と技術の専門知識を持つ人であると一般的には考えられていますが、他にも重要な側面があります。これらのスキルはすぐに身につくものではなく、トレーニングと実務経験、そして何よりも同僚とのコミュニケーションと議論によって、時間をかけて習得し、磨いていくものです。熟練の統計家の特徴は以下のとおりです。

  1. クリティカルシンキング

自動車会社のフォードを創設したヘンリー・フォードは、「考えることは最も過酷な仕事だ。 だからそれをやろうとする人がこんなにも少ないのだ。」と述べています。クリティカルシンキングに基づくマインドセットを構築し、推論し、行動することは、確かに困難な作業です。統計解析におけるクリティカルシンキングは、バイアスを排除してVeracity(真実性)を明らかにするべく情報を分析することであり、客観的にデータ解析を行えるために不可欠です。統計家が試験デザインの初期段階から参加することは非常に重要です。データの出所、対象集団、被験者の選択手法、試験治療の割付方法を批判的に確認することは、結果の妥当性 (内的妥当性) と対象集団への外挿の可能性 (外的妥当性) に間違いなく影響を与える基本的なポイントです。

  1. コミュニケーションとチームワーク

日本の詩人、サトロ・リュウノスケは、「われわれ一人ひとりは一滴の水にすぎないが、集まれば大海となる」と書いています。統計家は、試験に関わるすべてのメンバーと緊密に協力しなければなりません。試験の最終的な目的と目標を理解し、それに応じたデータ分析計画を立案するためには、スポンサーとのコミュニケーションと協力は不可欠です。プロジェクトチームとのコミュニケーションは非常に重要であり、統計解析は試験の最後に行われるものと思われがちですが、実際には、統計チームは初期段階から分析の計画立案を開始しています。統計チームは、データマネジメントチームと緊密にコミュニケーションを取り、不整合などのデータの問題について定期的かつ即時に連絡し、データの品質保証と整合性 (後で分析されます) を強化する必要があります。さらに、統計家とプログラマーは、試験全体を通じて手を携え二人一組で動かなければなりません。プログラマーは、統計家が統計分析計画に組み込んだ分析を具現化する責任を担うのです。

  1. 分析的・論理的思考力

分析的・論理的思考力とは、得られた情報を体系的・論理的に検討し、その構造や関係性を理解するために基本的な要素に分解する能力です。これは、統計家が通常、数理科学に特化したトレーニングを通じて身につけるスキルの1つです。統計家は、正確で公正な分析を行うために重要な決定を行う必要があります。一例としては、欠測データに対処する最善の方法(欠測値の補完戦略)を決めることがあります 。この場合、最初に行うべきことは、欠測データの原因が何であるかを理解し、それが試験の有効性や安全性に何らかの形で関連しているかどうかを評価することです。欠測データには、試験中にランダムに発生するため、バイアスを発生させないものがあります。これらはMCAR (Missing Completely at Random) パターンに従い、関連する変数や試験結果とは関係のない理由で発生すると言われています(例えば、交通機関の問題で患者が来院できないためにデータが欠落している場合など)。しかし、他のタイプの欠測データにはバイアスをもたらす可能性をもつものもあるため、現在自分たちがいる状況を識別し、適切な補完戦略を適用できるようにしておくことが重要です。

  1. 学習能力

統計学は非常に広範囲にわたるサイエンスであり、健康科学産業に適用できる様々な理論や手法があります。また、規制当局が、対象試験に対してより適していると考える、最近使用され始めたばかりの特定の技術を提案することもよくあります。このため、統計家は常に新しい概念を学習して吸収し、それに応じて実際に使用できるようにしておく必要があります。また、新しいデータ分析システムや言語、人工知能などの新しいテクノロジーやツールにキャッチアップしておく必要もあります。これらは、健康科学産業で今後さらに実装が進んでいくでしょう。

  1. 責任感と誠実さ

試験結果の検証において統計解析は重要であるため、Vardeman and Morris (2003) は、誠実さと倫理原則が不可欠であると指摘しています。統計家は、異常値、コンプライアンス違反、試験の不正行為を特定する際の鍵となります。誠実さと透明性を備えた決められたプロセスに厳格に従って作業し、分析プロセスを適切に文書化しなければなりません。これが試験の全段階を通じて行われなければならず、これによって試験の科学的信頼性とGCP原則への準拠が保証されるのです。

したがって、CROにとって統計解析の専門チームは、技術的洞察力に長けているだけでなく、上記のような、獲得するのに時間はかかるものの質の高い業務を遂行するための基本的特性を備えていることが極めて重要です。

文責:
Eduardo Sobreviela
Director, Biostatistics - Linical

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